みらぴかサポーターの佐々木です。私は長く中高一貫女子校の教員として、12歳から18歳の数多くの生徒たちと関わってきました。
12歳から18歳の間の6年間は、子どもたちが心身共に劇的に変わってゆく時です。その中で、高校3年間は、その後の人生にも関わる進路を決めてゆく時期にあたります。まだまだ不安定な時もある子どもにどう対応し、進路を決めていけばいいのか、親も悩むところです。
家庭では見えにくいかもしれませんが、学校で見ていると、子どもたちは、3年間で確実に変化していきます。こうした心の変化を理解して子どもたちに接してゆくと、親の気持ちも楽になり、子どもとの関係も良くなり、双方に納得のいく進路選択ができてゆきます。今回は「教員から見た高校時代の子どもの変化」を解説し、「親の接し方」について考えてみた
高校時代に子どもたちはどんな風に変化するの?
高校時代の最大のテーマは『アイデンティテイの確立』です。このことを心理学者のエリクソンは「自分とはどんな人間なのか」「自分は将来どんなことをやりたいのか」「自分の生きている意味は何だろうか」などと考えることだとしています。
高校3年間、子どもたちは大人になる過程をズンズンと進んでゆきます。まずは、学校ではどんな変化を見せるのか、見てみましょう。
高校1年生:自分と他者との違いに気づき、敏感になる
まだまだ子どもっぽさを引きずっていますが、中には「将来は医者になりたい」「弁護士になりたい」など、具体的な職業を目標とする生徒も出てきます。そんな友人の声を聞き、将来なんてまだまだ先だと思っていた生徒は「いつも大騒ぎしている隣の友達が、実は自分のことや将来のことを考えていた」ということに気づき、ショックを受けたりしています。
1年生の後半になると、2年生からの文理選択や進路についてのプログラムが出てきます。「私は何が好きなのか、何をしたいのか」と考える機会が増えますが、この時期はなかなかはっきりした答えは出ない子どもたちも多いです。
他者と比べて「私は勉強ができない」「自分に得意なことがない」など特に自分のマイナス面の方に目が行きがちで、イライラして落ち込むことも時にはあります。「自分のことなんて見つめたくないよー」と言って、保健室で泣いていた生徒もいました。
しかし、こうして試行錯誤しながら色々考えたり、調べたり、行動したりすることで、「私らしさ・私の好きなこと」などに少しずつ気づいていくようです。また、こうした過程で、苦手なことなどマイナスの感情を少しずつ引き受けられるようになり、消化できていくように見えます。
私は、生徒たちに「この時期は大いに悩む時期、内省の時期。悩んでいることに悩まないで、じっくり考えてみてね」と伝えています。
高校2年生:社会的な視線を獲得し、自分について考える
文化祭や体育祭、部活動など中心的な役割を担うようになります。すると、他者への視線は、自分との対比でなく、より社会的なものに変化していきます。
「この文化祭を学校全体が楽しんでくれるように…」「後輩がうまくなるには、先輩としてどのように指導していったらいいのか」など、視野がグーンと広がってゆきます。
と同時に「できたのは仲間のおかげ…」「~さんに感謝します」という言葉が聞かれるようになり、全体の中で自分の役割やあり方、発揮できる力やできないことを客観的にみられるようになっていくようです。
こうした活動は生徒たちにとって苦労も沢山あるのですが、得るものも大きくなり、秋を過ぎると高1の時とは全く違った自立した雰囲気を見せるようになります。より内面的なものについて考えられるようになります。
「先生~、そのくらいいいじゃないですか~」という甘えた感じで向かってきていた中学生の頃とは違い、私たち教師にも一定の距離間をもって対応してくるようになります。毎年生徒たちのこうした変化を見て感動していました。
高校3年生:自分がなりたい姿を描けるようになる
進路について具体的に決定していかなければいけません。悩みますが、ここまでの2年間の積み重ねの結果、自分の考えがはっきりしてきて、進路を決めていけるようになります。
日常の会話も大人っぽくなってきて、時にはこちらを気遣った発言を聞くようになり、大人と話しているような会話が可能になります。
また、3年間の葛藤や経験を乗り越えて、他者との距離感をつかみ、自分と違う他者を受け入れていくようです。厚生労働省のHPにも『高校生頃になると、次第に「自分は自分、他者は他者」という感覚が育ち、自分と違う面を持つ他者を受け入れることが可能になります。これは自我同一性の獲得の基盤ができたことを意味します。』と書かれています。
親は高校生の子どもにどう接するか
「第二反抗期における親への反抗は子どもから大人へと至る自分探しの始まりであり、アイデンティテイの確立にとって不可欠のものである」とされてきました。
学校では、先ほど述べたような変化が見られますが、家庭では、甘えて反抗という形になったり、親とは違ったライフスタイルや人間関係をあえて選択したりすることも出てきます。親は大学に行ってほしいと考えていても、本人は専門学校や海外への留学や、就職したいと言い出したりして、子どもと対峙しなければならない場面に出くわすこともあります。
親は自分が先に経験をしているため、子どもの主張のその先が見えてしまい、あれこれ心配してしまいます。良かれと思って反対するわけですが、前述したように、子どもは、親が思っているよりも早いスピードで自分を作ってきています。
そのため、ここはまず、頭ごなしに叱るのでなく、子どもの言いたいことをじっくり聞いてみるのがいいと思います。子どもには子どもなりの理由や理屈があるものです。
成績や部活への関わり方、友人関係、異性関係、親が気になることはいろいろありますが、この段階になって「一方的に親の意見に従わせる」ことは難しく、嫌々従わせたことが必ずいい結果を生むとは限りません。
私は、親は引けない時には、きちんと子どもに対峙すべきだと思っています。一方的に子どもの言いなりになる必要はないと思います。ただ、「とにかく反対!」では、子どもとの関係はぎくしゃくしたまま進んでゆきます。
同意できない場合、「親が何を心配しているのか」を具体的に伝え、もう一度考えるように言うのがいいのではないでしょうか。子どもは、ひとまず親の意見には反発しますが、反発しながらも、もう一度自分の意思を確認したり、時には修正したりして、自分の考えを整理してゆきます。
親の方もまた、子どもの考えを聞いて、考えが変わったりするものです。
個々の問題に対応する方法は、どこかで聞いた成功したやり方は結局通じないので、どうしても引けないところは、親が考えた方法で子どもにぶつかってみてください。人の心を動かすのは、方法ではなくその心持ちだなと思います。このやり取りをあいまいなままにして、子どもが納得しないまま、無理に親の考え通りにさせても、またその逆の場合でも、どこかでひずみが出て、その後に上手くいかなくなる例を見てきました。
親は少し離れたところで大きな旗を振っている応援団になる
親は断念の歴史だと、誰かが言っていました。どの親も自分の理想の姿を子どもに期待しますが、子どもは子どもで自分の人生を作ってきています。
ですから、たとえ色々反対した後でも、実際に親がその役割を発揮するのは「子どもの最大の応援団になる」ことです。人が最大限の力を発揮するのは、自分が好きなことややりたいことができる時です。親は子どもの幸せを願っているのですから、その最大限の力を発揮できるように応援してゆくことが、最も大切で、子どもの心を動かすように感じます。
時には親の方が自分の気持ちをなだめる必要が出てきて辛いこともありますが、それも含めて大人である親の役割かなと思います。
親の応援が子どもに伝わり、子どもは前向きに活動し、よい結果を出しやすくなり、感謝する心も生まれてくるようです。「最大の応援団」でいることは親にとっても実は最も楽しく、子どもにとっても力になり、双方にとっていい状態になります。
これまでのように子どもに直接手を貸すのでなく、少し離れたところで大きな旗を振っている「最大の応援団」になりませんか?
この時期の親の最大のテーマは「子離れ」
近年、対立や困難な状況にならない「平穏な親子関係」が多くなってきたといわれています。学校でも、親への反抗もなく、むしろ両者の仲はいいという親子が多くなってきているように感じます。特に昭和の時代にいたような「物わかりの悪い父親」には全くといっていいほどお目にかかりません。
しかし、「子どもにとっても、家庭にとっても平和で良かった!」というわけにはいかず、この場合こそ、意識的に親子関係を見直さなければなりません。法的にも18歳で成人になりますが、親の方がいつまでも子ども扱いして、自立しようとする子どもたちの足を引っ張らないように、気を付けましょう。
これまで子どもが失敗しないように直接いろいろ手助けしていたことから、少しずつ手を放して、多少の失敗には目をつむり、困ったときの精神的拠り所となるように、立ち位置を変化させてゆきましょう。
朝、子どもを起こしていませんか?勉強の予定を一緒に考えていませんか?子どもの時間割や進度を細かくチェックして口や手を出していませんか?子どもより先に進学先の情報を調べて、子どもが聞いていないのに子どもに伝えていませんか?
私もこの中のいくつかはやっていました。他にも近頃は、「大学卒業後の就職の内定取り消しに親が登場すること」もあるとニュースで報じているのを目にしました。でも、相手が大人だとすると、どれもやりすぎの感じですよね。子どもの失敗する姿を見るのは辛いし、何かをしてあげて喜ぶ顔を見るのは嬉しいものなので、この立ち位置を変化させることは、大変かもしれません。しかし、それを少し我慢すると、これまでとはまた違った大人同士の心地よい関係が築かれてゆくはずです。
私も、娘や息子には十分楽しませてもらってきましたが、親に縛り付けてはいけないと自分に言い聞かせ、高校生ごろから「大学卒業したら家を出て、一人暮らししてね」と伝えてきました。私自身への確認の言葉でもありました。その通り、就職後すぐに家を出て一人暮らしを始めました。心配もありますが、いい距離感を保てているのではないかと思っています。
最後に
高校3年間は、中学時代ほど目に見える形での反発は少なくなるかもしれません。それは、子どもの気持ちが自分の内側に向かっているからです。そのことを理解しておくと、多少の不機嫌や苛立ちの原因が見えてきます。苛立ちを受けとめたり、応援したりしているうちに、子どもは大人っぽくなってきます。こちらもそれに合わせて、距離を取ってゆくと、大人同士として、これまで以上に楽しい関係を築いていけると思います。
私は、高校生と共に過ごすのが好きです。なぜなら、生徒たちが色々悩みながら大人への一歩を踏み出してゆく姿は、とてもまぶしく感動的だからです。「17歳」「セブンティーン」という言葉は、日本だけでなく文学・詩・歌詞などに使われ、雑誌の名称などにもなってきました。 なぜ16歳でないのか、学校現場にいるととてもよくわかります。17歳(高2の頃)が、本当に大人への出発の時期なのです。そんな子どもたちの成長過程を意識しながら、私たち親も、これまでの対応からシフトチェンジしていくことが大切だと思います。
ずいぶん昔のことですが、私自身は、この時期にわざと難しい小説や詩を読んだりして、学校の外に広がっている世界に思いを馳せて、自分の中にある息苦しさと折り合いをつけようとしていました。皆さんも、自分の17歳の頃を思い出してみてください。目の前の子どもの心も想像しやすくなるかもしれません。
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佐々木 伸子
みらぴか認定サポーター
大学卒業後は百貨店勤務。専業主婦の時代を経て、離婚をきっかけに35歳で教員に。以降、担任・学年主任・教頭などを経験し、多くの生徒・保護者の方の進路や親子関係について相談を受け、サポート行っている。定年後も事務長として、管理職・教員を支援する側になり、長く学校現場に関わっている。現在は再婚し、ステップファミリー(成人した子ども3人、孫5人)の母。
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